クォリティ委員会  緊急情報 '03.8.8更新

乳房のバッグはどちらにしても色々な問題があり、アメリカでも基本的には生理食塩水のバッグしか認可されておりません。 CMCバッグに関しては中身がハイドロジェルというものが入っており、柔らかさの点でよいとされていますが、この物質の安全性が問題になっています。もしもバッグが破れて漏れた場合などの安全性も問題になりますが、もし破れなくても、時間とともにバッグの外に徐々に漏れる場合があります。そして組織にしみ出す可能性があります。つまりまだ色々な検討がなされていないというのが実態です。このバッグに関してはアメリカを始めイギリスなどのヨーロッパ各国でも使用が認められておりません。

詳しくは以下に日本美容医療協会速報、平成15年定例総会号P.2より抜粋しますので、ご参考になさって下さい。

●「ヨーロッパにおける人工埋入・注入材料についての現況」
  ―Nicolai先生を迎えて―

去る5月24日、協会の講習会においてオランダのJean-Philippe Albert Nicolai先生を迎えて、「ヨーロッパにおける人工埋入・注入材料についての現況」と題した特別講演が行われましたので、その概要を報告します。Nicolai先生はオランダのGroningen州立大学の形成外科教授で、1992年にHinderer先生らとEQUAM(後述)を立ち上げられ、以来General Secretaryを務めておられました。1995年からは、国際形成外科学会Biomaterial Committeeの委員長をされています。以前に米国アラバマ州の裁判所でPointer判事の下に、Dow Corning社を始めとする乳房インプラントの製造会社と患者側で42億ドルの和解案が提示されたときに、裁判所に乗り込んでいって演説をした方でもあります(当時、日本にも和解参加の呼びかけがありましたが、結果的には参加者があまりにも多く不成立に終わり、その後Dow Corning社は破産宣告をしました)。
EQUAM(European Committee on Quality Assurance and Medical Devices in Plastic Surgery)はヨーロッパ各国の形成外科医の代表が集まり、乳房インプラントを始めとする医用材料や機器についての情報交換と審議を行う会議体ですが、実際はほとんどのエネルギーを、EU諸国において乳房インプラント認めさせる(CE Markを取得する)ことに注力していました。Nicolai先生の今回の講演は乳房インプラントの歴史に始まり、その後の乳房インプラントを取り巻く市場や国際情勢(特にヨーロッパ)の動き、EQUAMの活動内容、そしてEQUAMの合意宣言で話をくくられました。以下に、その中から特に最近の情勢についての講演内容とEQUAMの合意宣言をご紹介します。
1980年代後半より、シリコンジェル人工乳房と自己免疫疾患の関係がクローズアップされ始め、1991年にはDow Corning社が訴訟で730万ドルの損失、1992年1月6日にFDAがシリコンジェル人工乳房の一時使用禁止を決定、オーストラリア、カナダ、フランス、イタリア、日本が盲目的に追従したため、これが世界的に大きな反響を呼んだ。その後、1999年には英国のMDA (Medical Devices Agency)がシリコンインプラントの安全性を報告(英国は一貫してシリコンジェルインプラントを禁止していない)、次いで米国のIOM (Institute of Medicine)やオランダHealth Councilも同様にその安全性を報告、シリコンに関するヨーロッパ議会においても、科学的エビデンスによるとシリコンインプラントを禁止しなくてはならない正当な理由はない、また膠原病との関連性はない、と報告された。
一方で2000年6月、MDAの警告によりTrilucent implant(soya bean oilから抽出したtriglyceride)が市場から撤退を迫られた。また同年12月にはMDAがPIP社とNovagold社のハイドロジェルインプラントに対して警告を発し、EU諸国においては使用禁止になった(これについては日本形成外科学会からも警告がだされた)。
更に一方で2001年には、それまで拒んでいたフランスがシリコンインプラントの禁止を解除し、これでEU諸国の全てがシリコンインプラントを解禁した。
2000年ヨーロッパ議会の医療用具役員会STOAは、「シリコンインプラントによってもたらされる一般的な健康上のリスク、特に乳房インプラントについて」3つのオプション を提示した。

オプション1: 現状維持、禁止措置なし、現在の法制度、すなわちDirective 93/42EECを維持。
オプション2: 危険性に関する完全な情報がないこと、および申し立てにより、シリコンインプラントを禁止。
オプション3: 完全に禁止はしないが、情報の提供とインフォームドコンセント、追跡調査、品質の管理、更なる研究に向けて改善する。

2000年10月、ヨーロッパ議会環境委員会の票決でオプション3を支持、11月には同議会婦人人権委員会の票決でもオプション3を支持、一時禁止の破棄を提言、2001年5月にはPettitions Committeeにおいて全員出席の下に、禁止なし、オプション3を採択。
下記に、2002年オランダGroningenで開催された EQUAM Consensus ConferenceにおいてまとめられたConsensus Declaration(合意宣言)を紹介します。

1. シリコンは従来幅広く使用されており、日常生活に欠くことができない物質である。シリコンに代わる、より優れた物質はない。内科や外科のあらゆる分野において、シリコン製のインプラントや医療用具は、美容に限らずしばしば再建外科においても依然として必要不可欠で、今後も使い続けられるであろう。
2. その他の医学的研究は、シリコンジェルインプラントと従来の自己免疫疾患や膠原病、癌やその他の悪性疾患とのいかなる関連性をも証明していない。これらの研究は以前のデータを再確認するものである。
3. シリコンジェルインプラントは、従来の如何なる自己免疫疾患や膠原病をも引き起こすものではないという、科学的、臨床的、免疫学的、疫学的な新たな最終データが存在する。
4. シリコンアレルギー、シリコン中毒、非定型的疾患、“新シリコン病”といったものが存在するという、科学的エビデンスはない。如何なる種類のインプラントに対しても通常の異物反応は生じるが、これは免疫疾病ではない。
5. シリコンジェルインプラントは、妊娠、胎児の発育、授乳、母乳育ちの子供の健康に悪影響を及ぼすものではない。乳房インプラントの患者は、定期的なフォローアップと、もし必要であれば適切な画像診断を受けるべきである。
6. シリコンを検出するためのラボラトリーテストに臨床的意義はない。シリコンに対する特定の抗体は検出されていない。
7. シリコンインプラントやシリコンジェルインプラントと神経疾患や症候を関連付ける、確実な科学的エビデンスはない。
8. EQUAMは、乳房インプラントはそれ自体が、内科的ないしは手術的治療を必要とする重大な局所的合併症引き起こしかねないリスクがあるとする、Institute of Medicine(IOM)の意見に賛同する。
S.Bondurant et al. (IOM): Safety of silicone breast implants. National Academy Press, Washington DC, June 22, 1999, p.187.
9. 患者に、豊胸手術や再建外科手術の利点を説明するのと同じく、障害やリスクについても説明する事は非常に重要な事である。従ってEQUAMは、患者との話し合いに使用するPatients InformationとConsent Formを用意している。
10. 乳房インプラントに関する、適用範囲が広い、合意の得られた、EU独自の基準が必要とされている。EQUAMは乳房インプラントのConformity Assessmentのためのガイドラインを支持する。 
E.U. directive 93/42/EEC relating to medical devices : jeannette.vanloon@nen.nl
11. EQUAMは、乳房インプラントの破裂率に関するより正確な情報や、シリコンジェルや生理食塩水、その他の充填材料の寿命に関してより正しい定義を提供するために、継続的な臨床研究、基礎研究を必要としている。
12. カプセル拘縮や破裂などの短期的合併症に関する情報を収集し、また乳房インプラントに関する長期的な調査のためにデータベースを提供するため、ヨーロッパ、更には世界的な患者の登録が重要である。そのような患者登録を成功させるには、機密保持の原則及び患者のプライバシー保護が保たれなければならない。
13. 客観的な報道は患者を安心させる事に貢献している。EQUAM は今後もメディアに対し、乳房インプラントや形成外科における新しい技術に関して最新の情報を提供していく。
14. 現在のデータを評価した結果、EQUAM はイギリスMDAが発した2000年6月6日のsoybean oil filled implant(Trilucent)の廃止勧告を支持する。
www.trilucentinfo.com
15. 現在の知見に基づき、EQUAMはシリコンジェルインプラントおよび生食インプラント使用の安全性を確認している。

2003年1月には、Inamed 社はFDA に対しシリコンジェルインプラントの再導入を求め、他社も追随しているとのことです。これを受けて今後、米国においてもシリコンジェルインプラントの解禁が秒読みに入ってくることが予想されます(とはいえまだ数年はかかるでしょうが)。
1992年の米国FDAによるシリコンジェル人工乳房の一時使用禁止命令以来、オーストラリア、カナダ、フランスなどがこれに追従、日本でもDow Corning社と高研(株)のシリコンジェルインプラントは認可を取り下げ、事実上、公式に認可を得たインプラントは姿を消してしまいました。しかし日本以外では生食バッグは認可されており、また米国やカナダにおいては再建例に限ってジェルインプラントも認可されています。その後2001年にはフランスが、次いで2002年にはオーストラリアがシリコンジェルインプラントを解禁しました。日本だけが未だに生食バッグさえも認可されていないため、逆に違法を承知のブラックマーケットが横行するといった、最悪の事態を招いております。今後は厚生労働省に対し、美容医療協会、形成外科学会、美容外科学会が共同歩調で、現状の問題点と解決策について答申するべきでしょう。
解決策としては、いくら認可されたからといってもやはり全くの野放しは問題で、当分の間は市販後調査Post Marketing Surveyが必要でしょう。そのためには、乳房インプラントの販売に際して登録制度を導入する必要があります。EQUAMにおいても数年前から、この登録されたインプラントに対する市販後調査を国際的に呼びかけています。しかし正式に認可されたインプラントのないわが国では、これに参加することもできません。参加するにしても、厚生労働省に申請をして正式にインプラントを輸入して見える先生方を対象とした市販前調査に限られます。わが国においてもとりあえず数社のインプラントを認可し、この販売を全て登録制として市販後調査を行うといった方式、すなわち“オプション3”の選択が最も望まれるところでしょう。その代わり患者さんには登録用紙に正しい記載をしてもらい、市販後調査に協力をしてもらう必要があります。それには、万一破裂したり不具合事象が発生した場合は、一定期間に限り、入れ替えのためのインプラントは製造業者から無償提供される、といった補償も必要になるでしょう。このような市販後調査への協力や、登録されたインプラントを使用した手術は、訳のわからない入手経路を経たインプラントを使用した手術に比べ遙かに安心して受けられるといった、患者さんに対する啓蒙活動こそが日本美容医療協会の役割といえるでしょう。
ちなみに、アリオン社のCMCハイドロジェルインプラントはあたかも正式な認可が下りたような情報が流れ、最近わが国においても流通しているようですが、Nicolai先生によりますと実情は、裁判所から出された使用禁止命令が撤回されただけで、フランス政府当局(AFSSAPS医療製品衛生安全公社)は未だに正式な認可は出していないとのことです(http://agmed.sante.gouv.fr/htm/10/implant/liste.htm)。この辺が誤解を生んでいるようです。もちろん英国のMDAも、PIPやNovagoldのハイドロジェルインプラントと同様にCMCハイドロジェルインプラントを認めておりません(www.medical-devices.gov.uk)。
今回の講演は乳房インプラントのお話が中心で、残念ながらその他のインプラントや注入材料等について十分な時間をとれませんでしたが、安全性が確認されないまま海外から流入している注入材料やボツリヌストキシンなどについても同様に、治験―医療承認―市販後調査といった流れが必要になるでしょう。

Nicolai先生のお示しになった参考資料:
1. Report of the Independent Review Group (IRG) “Silicone Breast Implants”, MDA, U.K. 1999: www.medical-devices.gov.uk, www.silicone-review.gov.uk
2. IOM: www4.nationalacademies.org
3. Health Council of the Netherlands: “Health risks of silicone breast implants”: GR@gr.nl

(日本美容医療協会速報、平成15年定例総会号P.2より抜粋)

ブレストインプラント製造メーカー


| 緊急情報 | 手術方法 | 手術を受けるにあたって | 質問受付 | 日本美容外科学会について | LINK | トップページ |